
お彼岸の連休は益子で過ごしました。すっかり秋めいて涼やかな風が吹くようになって日中活動もずいぶん楽になりました。そんな今回のミッションは玄関脇洋間の床部撤去作業、友人一家が手伝ってくれてとても捗りました。
画像は床下から出てきた益子焼きの花入です。ずいぶん汚れていましたが洗ってみると立派な角形花入で、これぞ益子焼きという重厚な作品。益子の陶土で厚手に成形された素地に地薬(じぐすり)がたっぷりと掛かっています。白い部分は並白釉、茶色い部分は柿釉(地元ではアカコと呼ぶ)草花のように見える部分は多分ロウ抜きという技法で柿釉をはじき、並白と銅釉(地元では青磁と呼ぶ)で装飾した物でしょう。
高台部分には作者の刻印であろう平仮名の『き』が描かれ、ご夫婦でもあろうお二方のお名前が呉須で記されており、53.5.21という日付らしい数字も記されています。多分昭和53年5月21日が何がしかの記念日で、その際に焼かれた物なのは想像に難くありません。ひょっとすると1953年(昭和28年)かもしれませんが…
今、益子焼の売店や窯元さんへ行ってもなかなかこういう『ザ・益子焼き』といった作風のものを見受けません。時代に則さなくなってしまったからでしょうが、ちょっと寂しい気もします。画像の作品も、ほんの40年ほど前の物と仮定すれば、それほどの骨董価値があるわけではありませんが、私がお借りした家を建てたであろう大先達がここで暮らした証であるとともに益子という陶郷の生き字引きです。
大事に飾って、季節季節には花を活けて愛でましょう。頗る安定が良いので、大きな花材もがっしりと受けとめてくれるでしょう。益子の陶工の足裏の土踏む力を感じる逸品です。